朝井リョウの話題の小説。400ページ超えの対策にもかかわらず、あちこちで評価が高いので読んでみた。上手だな。心理描写に加え、世の中の事象の解釈・説明がとてもうまいと思う。テレビタレントになったら、間違いなく引っ張りだこだろう。明石家さんまにも似たようなことを言われていて、それは絶対に嫌だ、と言い切っていたが。
タイトルのもとにもなっている「チャーチマーケティング」とは、教会、とくに大きな教会(メガチャーチ)がはじめたとされるもので、個人の体験談を信者の間で共有し、その没入度で階層化し、コミットメントを高めるために対価(献金)を集める。そして当事者意識をもたせ、布教活動を促すものだ。
今は自分の好きなアイドルなどを「推す」ことがあちこちで起きていて、それはアイドルに限らず、様々なブランドや商品を売ることにもこのシステムは通用する。ファンダムや推し活をする人たちは信者であり、ビジネスやマーケティングとしてこの仕組みを応用する人たちは、教会側だ。ネットで投げ銭を競ったりするのも、この流れの中にある。
この小説では、自分の居場所が見つからない、あるいは失ってしまった何人かの登場人物たちが、この手法に絡め取られていくことが、リアリティを持って描かれている。途中で、マーケティング手法の説明みたいになってきたところで、私は一歩引いて読むようになった。それでも、上手な小説だと思う。わりと身近にも、あの人もそうかも、と思える人がいる。トランプがやっていることや、ネットを使った選挙戦もこの仕組みを活用している。
読後にふと考えてみる。人は誰か共感してくれる人、理解してくれる人を求めている。それが特定の神さまを信じることになったり、同じCDを何枚も買うことになったり、ネットで「日本人は騙されている」という動画を作ることになったり、帰結するところは違うけれど、人間の心理としては同じなのではないだろうか。
この小説の中で、自分の信じるものができた、と思った人たちは皆、「自分たちの知らない世界があり、それを知るのだ」と考えたり、吹き込まれたりして、その結果として、少数の人たちの言説だけを信じるように、どんどん視野を狭めていく。そしてそれがわかっていても、その行為によって得られる快感に酔っていく。トランプの信者たちと同じように。
これが連載されていたのが日経新聞だというのだから、ビジネスマンをターゲットにした作者のマーケティング力は本当に凄い。


